【第五幕 第一場】
木曜の朝。
ロミオはヴェローナを出た後、マントヴァにある古びた小屋をすみかとしていました。
その日、ロミオは不思議な夢を見て目覚めます。それは、死んだロミオにお姫様がキスをすると生き返り、王になるという夢でした。ロミオは、その夢が幸先の良い夢であると確信します。
そしてロミオの元へ、バルサザーがやってきました。ヴェローナから使いとして来たのです。
バルサザー:「ロミオ様、連絡に参りました」
ロミオ:「バルサザー、こんな遠くまでありがとう。家のみんなは変わりないか?」
バルサザー:「モンタギュー家では、奥様が寝込んでおられます。ロミオ様の追放がショックだったようです。それから、昨日キャピュレット家のジュリエットが亡くなりました。エスカラス様とマキューシオ殿の親戚にあたるパリス様との結婚式当日のことだったそうです」
ロミオ:「そ、そんな。それは本当か?」
バルサザー:「はい」
ロミオは生きることに絶望し、ジュリエットの横で死ぬことを決意しました。天国で一緒になりたいと思ったのです。そして、確実に死ぬことができる強い毒薬を手に入れようと考えました。
しかし、毒薬は作ることも売ることも犯罪とされており、簡単には手に入りません。そこでロミオは、知り合いの貧しい薬師の元に行くことにしました。
ロミオ:「気晴らしに馬で走ってくる。バルサザーはヴェローナから来て疲れているだろう。家で休んでいてくれ」
バルサザー:「わかりました。お気をつけて」
ロミオは、知り合いの貧しい薬師の家に行きました。
ロミオ:「やあ、薬師さん。久しぶり」
薬師:「あなたは、ヴェローナのロミオさん。お久しぶりです。薬をお求めですか?」
ロミオ:「毒薬を売ってください。一口で人が死ぬ強いものを」
薬師:「無理です。マントヴァの法律で禁止されています。そんなものを売ったら、死刑になってしまいます」
ロミオ:「そちらの言い値で買います。もちろん、あなたのことは誰にも言いません」
最初は拒否した薬師でしたが、彼は貧しさに勝てず、ロミオに毒を売ってしまいました。
薬師:「この毒薬は、一口飲むだけで死んでしまいます。取り扱いには気をつけてください」
ロミオ:「どうもありがとう」
ロミオは毒を手に入れると、小屋に戻りました。
ロミオ:「バルサザー、所用があるのでヴェローナへ戻る。人に見つからないよう夜中に町へ入ろう。準備ができたら出発だ」
バルサザー:「わかりました」
こうしてロミオとバルサザーはマントヴァを後にし、ヴェローナを目指しました。
【第五幕 第二場】
木曜の夜。
ロミオに手紙を届ける使者のジョン神父が、ロレンス神父の待つ教会に戻ってきました。
ジョン:「ロレンス神父、申し訳ない。町を出る時、疫病の疑いで役人に捕まってしまい、手紙をマントヴァへ届けられなかった」
ロレンス:「こ、これは大変だ!」
ジョン神父は、もう一人の僧侶と共にマントヴァに向かう予定でした。しかし、その僧侶が出発前に恐ろしい伝染病の患者のお見舞いをしていたのです。そのため、ジョン神父と僧侶は役人に捕まり、隔離のため外出を禁止されてしまいました。
ジョン神父は家から出れなくなったので、代わりに手紙を届ける使者を雇おうとしました。しかし、神父は伝染病の疑いをかけられていたため、怖がって誰も引き受けてくれませんでした。さらに家には見張りがつけられ、ロレンス神父にも連絡ができなかったのです。
ジョン:「私は病にならなかったので、解放されて戻って来れたんだ」
ロレンス:「それはよかった。しかし、仮死の薬を飲んだジュリエットが、あと数時間で目覚めてしまう。どうにかしなければ」
ロレンス神父は、ロミオが着くまでジュリエットを教会でかくまうことにしました。そして改めてマントヴァのロミオの元へ手紙を出し、ジュリエットを迎えに行くことにしました。
【第五幕 第三場】
木曜の夜。
パリスは、召使いの少年と共にキャピュレットの霊廟を訪れていました。花を備えに来たのです。
パリス:「ジュリエット、かわいそうに。花嫁と最期の別れをするとしよう」
そこへ、遠くからロミオとバルサザーが近付いて来ました。
ロミオ:「バルサザー、今すぐこの手紙を父に届けに行ってもらいたい」
バルサザー:「しかしロミオ様。こんな時に、こんな所で、お一人にはできません」
パリスは近付いて来る人物がロミオであることに気付きました。
パリス:「あれは、モンタギュー家のロミオだな。ヴェローナを追放されたのに、なぜここに。隠れて様子を見よう」
パリスは召使いの少年とともに木の陰に隠れると、二人の様子を窺いました。
ロミオ:「何度も言わせないでくれバルサザー。今すぐこの手紙を父に届けてほしいんだ」
バルサザー:「わかりました」
ロミオはバルサザーを見送ると、キャピュレット家の霊廟に入ろうとしました。すると、そこにパリスが姿を現しました。
パリス:「君はモンタギュー家のロミオだな。キャピュレット家の霊廟に何の用だ」
ロミオ:「誰だか知らないが、邪魔しないでくれ。僕はジュリエットに会いたいだけなんだ」
パリス:「ジュリエットの眠りを邪魔するつもりか。死者への冒涜を許す訳にはいかない」
パリスはロミオが墓を荒らしに来たと思い、剣を抜きます。
ロミオ:「邪魔をするなら容赦はしないぞ」
ロミオも剣を抜くと、二人は切り合いを始めました。
激しい戦いの末、パリスが倒れました。
召使いの少年:「大変だ、パリス様がやられてしまった。助けを呼びに行かないと」
隠れて様子を見ていた召使いの少年は、急いで衛兵を呼びに行きました。
パリスは、ロミオに最期の願いを伝えます。
パリス:「ロミオ、君に頼みがある。私が死んだら、妻のジュリエットと同じ墓に入れてくれ」
願いを伝え終えると、パリスは息絶えました。
ロミオ:「妻だって?するとこの人は、マキューシオの親戚のパリスだったのか」
ロミオは願いを聞き入れ、パリスをキャピュレット家の霊廟に運び入れることにします。
ロミオがキャピュレット家の霊廟に入ると、仮死状態のジュリエットが安置されていました。
ロミオはしばらくジュリエットに見とれます。
ロミオ:「ああ、ジュリエット。君が死んでしまったなんて信じられない。ただ眠っているだけで、今にも目覚めそうなのに。僕もすぐ君のそばに行くよ」
ロミオはジュリットと共に永遠に眠るため、毒薬をすべて飲み干して息絶えました。
その頃、墓地にやって来たロレンス神父がバルサザーと出くわします。
バルサザー:「ロレンス神父。どうしたんですか、そんなに慌てて」
バルサザーはロミオの元を離れましたが、ロミオがことが気になり、すぐに手紙を届けに行くべきか迷っていたのです。
ロレンス:「ああ、バルサザー。もしかしてロミオも一緒ですか?」
バルサザーは、ロミオとはキャピュレット家の霊廟の前で別れたことをロレンスに伝えました。
ロレンス:「わかりました、ありがとう」
ロレンス神父はバルサザーにお礼を伝えると、霊廟へと走ります。霊廟に到着して中に入ると、ロミオとパリスが死んでいました。
ロレンス:「ロミオ!パリスさん!ああ、なんということだ」
その時、ジュリエットが眠りから目覚めます。
ジュリエット:「ああ、神父様。ここはキャピュレット家のお墓ですね。計画はうまくいったのでしょうか。ロミオはどこに?」
ロレンス:「すまない。計画は失敗してしまった。ロミオはそこにいる」
ジュリエットは倒れているロミオを見つけて抱き寄せました。ロミオはすでに息絶えており、ジュリエットは嘆き悲しみました。そしてロミオの手に空になった瓶が握られていることに気付きました。
ジュリエット:「もしかして、これは毒薬?わたしの分を残してくれないなんて」
その時、外から衛兵の声が聞こえてきました。パリスの召使いの少年が呼んできたのです。
ロレンス:「ジュリエット、衛兵がこっちへ来る。このままでは捕まってしまうから、とにかくここを出よう」
ジュリエット:「わたしはロミオと一緒にいます。神父様だけでも逃げてください」
ロレンスはやむをえず、ジュリエットを置いてその場を離れました。ロレンスが去った後、ジュリエットはロミオの短剣を手に取ります。
ジュリエット:「ロミオ、わたしもあなたの元にいきますね」
ジュリエットは、ロミオの短剣で自ら命を絶ってしまいました。
金曜の未明。
やがて、キャピュレット家の霊廟に衛兵が入ってきます。それに続いて、ヴェローナ太守エスカラス、キャピュレット夫妻、モンタギューが霊廟に入ってきました。そこで彼らは、変わり果てたロミオ、ジュリエット、パリスを発見します。
エスカラス:「パリス!なんということだ!」
モンタギュー:「おお、ロミオ!なぜこんなことに」
キャピュレット:「ああ、ジュリエット…」
モンタギューは冷たくなったロミオに姿を見て絶望します。キャピュレット夫妻も、ジュリエットの姿を見て嘆き悲しみます。
エスカラス:「衛兵たちよ。ロレンス神父とバルサザーとパリスの召使いを連れてこい!」
ロレンス神父とバルサザーは、衛兵に捕まっていました。エスカラスは三人を衛兵に連れてこさせると、彼らに尋問しました。
エスカラス:「ここで何があった!それぞれ知っていることを正直に申せ!」
ロレンス神父は、ロミオとジュリエットが密かに結婚していたこと、ジュリエットがパリスと結婚させられそうになり仮死の薬を渡したこと、ジュリエットが仮死状態であることを行き違いでロミオに伝えられなかったこと、仮死から目覚めたジュリエットを置いて霊廟から逃げたことを話しました。
召使いの少年は、パリスがロミオを止めようとして切り合いになったことを話しました。
バルサザーは、ロミオからモンタギューに手紙を渡すように頼まれたが、ロミオが心配で墓地に留まっていたことを話しました。
エスカラスは、ロミオがモンタギューに書いた手紙を読みました。そこには、ロミオが貧しい薬師から毒薬を買い、ジュリエットと共に死ぬつもりであることが書かれていました。読み終わると、エスカラスはすべてを理解しました。
エスカラス:「なんということだ。両家の争いのために、キャピュレット家ではジュリエットとティボルトが、モンタギュー家ではロミオが、我がエスカラス家ではマキューシオとパリスが命を落としたのだ!これでもまだ両家は争いを続けるつもりなのか!」
モンタギュー:「わたしの妻は、ロミオの追放がショックで体調を崩し、昨日亡くなりました。そして今、息子のロミオまで死んでしまった。もう争うのは終わりにしたい。キャピュレットさん、どうか今までのことを許してもらえないだろうか」
キャピュレット:「こちらこそ、申し訳なかった。まさか、ジュリエットがロミオと結婚していたなんて。モンタギューさん、本当にすまなかった」
キャピュレットとモンタギューは、お互いに謝罪し、それを受け入れました。
エスカラス:「町へ戻ろう。償うこと、許すことについて、私たちは話し合わなければならない。そして、この不幸な事件で命を落とした者たちを丁重に弔おう」
両家は和解の証としてロミオとジュリエットの彫像を作ることを約束し、このような悲劇を二度と繰り返さないことを固く誓い合ったのでした。
おしまい
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- ロミオとジュリエット 第三幕
- ロミオとジュリエット 第四幕
- ロミオとジュリエット 第五幕
- ロミオとジュリエット メイキング
※「LEGOお話 ロミオとジュリエット」の文章は、下記文献を参考にマツヒラが現代口語にて書き直しております。
【出典】
出典:青空文庫「ロミオとヂュリエット」
URL:https://www.aozora.gr.jp/cards/000264/card42773.html
作:ウイリアム・シェイクスピア
翻訳:坪内逍遥
底本:ロミオとヂュリエット 新修シェークスピヤ全集 第二十五卷
出版社:中央公論社
初版発行日:1933(昭和8)年10月30日
入力に使用:1933(昭和8)年10月30日
校正に使用:1933(昭和8)年10月30日
青空文庫 工作員データ:入力…osawa 校正…土屋隆
【青空文庫さまの著作権などの各種権利について】
青空文庫さまにおける著作権のお考えを元に、参考文献として使用しても問題ないと考え使用させていただきました。
参照:青空文庫収録ファイルの取り扱い基準
URL:https://www.aozora.gr.jp/guide/kijyunn.html