【序詞】
ヴェローナという町がありました。この町には、二つの名家がありました。モンタギュー家とキャピュレット家です。両家はとても仲が悪く、ことあるごとに対立していました。
【第一幕 第一場】
とある日曜の朝。
町の広場で、キャピュレット家に仕えるサンプソンとグレゴリーが、イライラしながら歩いています。
グレゴリー:「ええい、モンタギューの奴らめ。イライラする」
サンプソン:「そうだな、昨日の決着をつけなければ気が済まん」
この前日、キャピュレット家とモンタギュー家は町で大きなけんかをしていました。二人はその怒りが冷めていなかったのです。そこに、モンタギュー家に仕えるエイブラハムとバルサザーが通りかかりました。
エイブラハム:「おや、キャピュレット家の奴らがいるぞ」
バルサザー:「こちらをにらんでいるな」
サンプソンとグレゴリーが、エイブラハムとバルサザーの元にやって来ました。
サンプソン:「おい、昨日の続きだ。勝負しろ」
エイブラハム:「おもしろい。相手になってやる」
双方の間に緊張が走りました。その様子を見たモンタギューの甥のベンヴォーリオが仲裁に入りました。
ベンヴォーリオ:「やめるんだ、おまえたち。昨日のけんかで、ヴェローナ太守エスカラス様からお叱りを受けたばかりだろう」
そこへキャピュレットの妻の甥、ティボルトがやって来ました。
ティボルト:「太守など関係ない。昨日の決着をつけてやる。かかってこい!」
両家が一触即発となった時、ヴェローナの太守エスカラスが衛兵と共に現れました。
エスカラス:「おまえたち、何をしている!やめんか!」
キャピュレット:「むむ、エスカラス様…」
モンタギュー:「ぐぬぬ…おまえたち、剣をしまえ」
両家の者たちは剣を収めました。
エスカラス:「この騒ぎの事情を聴取する!モンタギューにキャピュレット、二人は明日、出頭するように!他の者たちは今すぐに解散せよ!」
広場に集まった人々は帰っていきました。この騒動の中に、モンタギューの息子ロミオの姿がありませんでした。モンタギュー夫人は、家の者たちにロミオがどこにいるのかを尋ねました。
モンタギュー夫人:「誰か、ロミオを見かけなかった?」
ベンヴォーリオ:「ロミオでしたら今朝、町外れの森で見かけました。考え事をしている様子でした」
モンタギュー:「最近ロミオの元気がないのだ。ベンヴォーリオよ、ロミオに会って話を聞いてやってくれ」
ベンヴォーリオ:「わかりました」
その日の昼、ベンヴォーリオはロミオに会って話を聞くことにしました。
ベンヴォーリオ:「やあ、ロミオ。最近あまり元気がないようだが。何か悩みでもあるのか?」
ロミオ:「実は、寝ても覚めてもロザラインのことで頭がいっぱいで。どうすればいいんだ」
ベンヴォーリオ:「キャピュレットの姪のロザラインか。ロミオ、辛いだろうがキャピュレット家だけはやめておけ」
ロミオはうなだれました。ベンヴォーリオは、ロミオが他の女性に恋をすれば立ち直ると考えるのでした。
【第一幕 第二場】
日曜の昼頃。
キャピュレットが、伯爵のパリスと町を歩いています。パリスは、ヴェローナ太守エスカラスの親戚です。
キャピュレット:「エスカラス様からは、キャピュレット家とモンタギュー家が再び争いを起こした時は、両家に重い罰を与えると言われていたのだが。つい熱くなってしまったよ」
パリス:「両家の仲直りと繁栄を願ってのことでしょう。ところでキャピュレットさん、今日はお願いがあって参りました。あなたの娘ジュリエットと結婚させてほしいのです」
キャピュレット:「それは嬉しい話しですが、ジュリエットはまだ14歳。結婚は16歳になるまで待っていただけませぬか。まずはパリス殿をジュリエットに紹介しましょう。今夜行われるキャピュレット家の夜会にお越しくだされ」
パリス:「はい、喜んで」
キャピュレット:「それでは私は夜会の準備がありますので、また今夜」
キャピュレットは帰宅すると使用人のピーターを呼び、夜会の招待客の名簿と招待状を渡しました。
ピーター:「わかりました、だんな様」
ピーターは招待状を配りに町へ出ました。しかし、彼は字が読めませんでした。
ピーター:「しまった、おいら字が読めないんだ。そうだ、字が読める人に頼んで、この名簿を読んでもらおう」
そこにロミオとベンヴォーリオが通りかかりました。ピーターは二人のことを知らなかったので、声をかけました。
ピーター:「すいません。この名簿を読んでもらえませんか。おいら、字が読めなくて」
ロミオ:「ええ、いいですよ」
ロミオが名簿を読み上げていくと、ロザラインの名もありました。
ロミオ:「これは夜会の招待客の名簿だね。どうすれば夜会に参加できるんだい?」
ピーター:「モンタギュー家の関係者でなければ参加できますよ。お二人もぜひお越しください」
ロミオ:(夜会に行けばロザラインに会える!)
ベンヴォーリオ:(ロミオが夜会で新しい女性に出会えれば、ロザラインを忘れることができるな)
こうして彼らは、キャピュレット家の夜会に忍び込むことにしたのです。
【第一幕 第三場】
日曜の昼頃。
ピーターが招待状を配っている頃、キャピュレット家では、キャピュレットが娘のジュリエットにパリスとの縁談を伝えていました。
キャピュレット:「今日、伯爵のパリス殿からジュリエットに結婚の申込みがあった。ジュリエットよ、パリス殿を夜会に招待したので、ご挨拶するように」
ジュリエット:「わかりました」
キャピュレット夫人:「あらまあ、これは嬉しいお話しですこと」
乳母:「よかったですわね、お嬢様」
ジュリエットはあまり興味はなさそうでしたが、キャピュレットの言いつけ通りパリスと会ってみることにしました。
【第一幕 第四場】
ベンヴォーリオは、友人のマキューシオと会っていました。マキューシオは、ヴェローナ太守エスカラスの親戚で、ロミオの親友です。
ベンヴォーリオ:「今夜、キャピュレット家の夜会があるので、ロミオと忍び込むことにした。マキューシオも来ないか?」
マキューシオも、ロミオが他の女性に恋をすればロザラインのことを忘れられると考えていました。
マキューシオ:「ロミオのやつ、ロザラインが振り向かないから、元気がなくてつまらなかったんだ。そういうことなら、おれも一緒に行くよ」
こうして、ロミオ、ベンヴォーリオ、マキューシオの三人は、キャピュレット家の夜会に仮装して忍び込むのでした。
【第一幕 第五場】
日曜の夜。
キャピュレット家は、大勢の招待客で賑わっています。
ロミオとベンヴォーリオとマキューシオは、仮装して夜会に潜入しました。しかし、ロミオはロザラインに会うことはできませんでした。ロザラインは欠席していたのです。
そこへ、キャピュレットに連れられたジュリエットが現れました。招待客たちは、ジュリエットの美しさにため息をもらします。
キャピュレットはジュリエットにパリスを紹介しました。
キャピュレット:「パリス殿、本日はお越しいただきありがとうございます。さあ、ジュリエット。パリス殿にご挨拶を」
ジュリエット:「パリス様、はじめまして。ジュリエットです」
パリス:「キャピュレットさん、本日はお招きありがとうございます。はじめまして、ジュリエット。私と踊っていただけませんか」
ジュリエット:「よろこんで」
ジュリエットはパリスと踊りました。会場にいたロミオも、その様子を見ていました。
ロミオ:「ああ、なんて美しい女性なんだ」
ロミオはロザラインに会えず落ち込んでいましたが、ジュリエットを一目見るなり夢中になりました。しかし、その様子をティボルトに見つかってしまいます。
ティボルト:「おじ貴、あそこにモンタギュー家のロミオたちがいるぞ。叩き出してもいいよな!」
キャピュレット:「ふむ、確かにあれはロミオだな。見たところ、礼儀正しく紳士的に振る舞っておるようだ。パリス殿とジュリエットのこともあるし、今夜は見逃してやれ」
しかし、ティボルトの怒りは収りません。
ティボルト:「いや、ダメだ。うちの夜会に忍び込むなんて許せねえ。おじ貴、おれはやるぜ!」
これに対して、キャピュレットはティボルトを一喝します。
キャピュレット:「わしの言うことが聞けぬのか!この夜会で乱闘騒ぎなど絶対に許さん!」
キャピュレットに叱責され、ティボルトは怒って夜会から出て行きました。そして落とし前をつけるため、ロミオとの決闘を決意したのです。
その頃、ロミオはジュリエットがキャピュレットの娘と知らずに話しかけていました。
ロミオ:「(さっきのキレイな女性だ!)あの、よろしければ僕と踊ってもらえませんか」
ジュリエット:「(あ、この人かっこいい!)はい、よろこんで」
二人はダンスをしながら、お互いに恋心を抱きました。
ジュリエット:「先ほど踊った男性、とてもすてきな方でした。お名前を聞いてきてもらえない?」
乳母:「わかりました、お嬢様」
ロミオは会場のジュリエットを眺めています。そこに、ジュリエットの乳母がやって来ました。
乳母:「こんばんは。先ほど、お嬢様とダンスをされていた殿方ですね。私はお嬢様の乳母でございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ロミオ:「はじめまして、乳母様。モンタギュー家のロミオです。先ほどの女性のお名前を教えて頂けませんか」
乳母:「あらまあ、モンタギュー家の。お嬢様は、キャピュレット家のジュリエット様です。とてもおきれいでしょう」
ロミオ:「ええ、本当にすてきな女性です。礼儀正しくて、立ち振る舞いも美しくて。キャピュレット家のご息女だったんですか…」
ロミオは、ジュリエットがキャピュレットの娘であることを知り、衝撃を受けました。
一方、ジュリエットも乳母からロミオがモンタギューの息子であることを聞かされました。
ジュリエットもまた、衝撃を受けるのでした。
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- ロミオとジュリエット 登場人物
- ロミオとジュリエット 第一幕
- ロミオとジュリエット 第二幕
- ロミオとジュリエット 第三幕
- ロミオとジュリエット 第四幕
- ロミオとジュリエット 第五幕
- ロミオとジュリエット メイキング
※「LEGOお話 ロミオとジュリエット」の文章は、下記文献を参考にマツヒラが現代口語にて書き直しております。
【出典】
出典:青空文庫「ロミオとヂュリエット」
URL:https://www.aozora.gr.jp/cards/000264/card42773.html
作:ウイリアム・シェイクスピア
翻訳:坪内逍遥
底本:ロミオとヂュリエット 新修シェークスピヤ全集 第二十五卷
出版社:中央公論社
初版発行日:1933(昭和8)年10月30日
入力に使用:1933(昭和8)年10月30日
校正に使用:1933(昭和8)年10月30日
青空文庫 工作員データ:入力…osawa 校正…土屋隆
【青空文庫さまの著作権などの各種権利について】
青空文庫さまにおける著作権のお考えを元に、参考文献として使用しても問題ないと考え使用させていただきました。
参照:青空文庫収録ファイルの取り扱い基準
URL:https://www.aozora.gr.jp/guide/kijyunn.html